苦しかった頃

診断

長男を初めてクリニックに連れて行く時、私には期待があった。

ドクターは何か助けになることを言ってくれるのではないかという淡い期待。

とりあえず、検査をすることになった。

そして、診断結果は私一人で聞きに行った。

「アスペルガー症候群(自閉症スペクトラム症)にADHDが被っています」

「知的な遅れを伴わない自閉症です」

そして、ドクターは、このかいわいの「親の会」を紹介してくれた。

それだけだった。

私は勘違いをしていたのだ。

うちの息子にどうしたら良いか何か教えてくれるのではないか。

ところが現実は違った。

ドクターは口数が少なく、そんな程度のことしか言わなかった。

しかし、女性の臨床心理士は違った。

「愛しなさい」

「よく、ここまでひどくしましたね」

この臨床心理士は他にもかなり厳しいことを言った。

「アスペルガーの子は、愛情を注いでも、ざるみたいに、どんどん抜けて行ってしまいます。
普通の子は10愛したら、10受け取るかもしれないけど、アスペルガーの子は100愛しても10受け取るかどうか……
だから、ケント君と一緒に料理をしたり、楽しいことをいっぱいしなさい。
あなたは頑張って来たのかもしれないけど、アスペルガーの子には足りない。
だから、もっともっと頑張りなさい」

最初の言葉はかなり傷ついたと言うか、腹が立ったが、後で言われたことは、厳しいけど、大切なことを言っていたんだなぁって後で思った。

忘れずに今も覚えている。

振り返ってみたら、障害が分かって直ぐにこのことを言われたわけで、それは一番大切なメッセージだった。

そうは、言われても……

正直言うと、ケントの大変な言動に振り回されている日々の中で、臨床心理士が言った言葉を、私は直ぐに実行できなかった。

そうできるまでに、時間がかかった。

でも、心のどこかにその言葉はしまわれていた。

それができなければ、ケントは変わらない。

本当は分かっていた。

分かっていたけどできなかった。

かわいいと思えなかったし……

だって、どうにもならないことを毎日、何時間も言い続け、ちよっと気に入らないと、弟たちを蹴ったり、叩いたり、学校は遅刻か欠席……

私は耐えきれず、怒鳴ったり、泣いたり、けっこうひどかった。

そんな中で私はケントを愛するどころか、「ケントがいなければ、私は良いお母さんでいれたのに」と思っていたのだ。

だから、真剣にケントが入院してくれたらいいと思っていたので、ドクターから、入院を勧められたことは、私にはその時は希望だった。

後で考えたら、かなりひどい親だと思うが、その時は本当に入院してほしかった。

入院すれば、薬漬けになるとか、そういうことまで考えが及ばず、ただ、ただ私はケントから開放されたかった。

だから、「愛しなさい」とか言われるのは嫌だった。

聞きたくなかった。

それが、その時の私だった。

明日に続く

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