◯◯◯が死んだ
ケントがふらっとやってきた。
随分久しぶりだ。
スエットに無精ひげ、髪はボサボサ。
私は電話中だった。
その電話中の私に向かってケントが言った。
「◯◯◯が死んだ」
ケントと仲の良い友だち。
25歳
私のピンクやブルーの石をひとつかみ握って「これ、もらっていい?」
「いいよ」と言うと「ありがとう」と言って出て行こうとしたので「なんで亡くなったの?」と聞くと、
「わかんねー。今朝死んだって……」
石をポケットにジャラっと入れてそのまま、出て行った。
滞在時間3分。
なぜ、やってきた?
もちろん、その友だちのことが気になった。
だけど、しばらくすると「ケントはなんで私にそのことを伝えに来たのだろう」と不思議に思った。
電話でも良かったのに、わざわざそれだけを言いに来た。
友だちを大事にするケント。
突然の友だちの死に大きなショックを受けたのだろう。
悲しかったのだろう。
悔しかったのだろう。
ただ無表情で友だちの死を告げて帰ったケント。
受け止められない。
受け止めたくない。
そういうどうしようもない気持ちを抱えてやって来て、帰って行った。
25歳だけど、
自立したけど、
嬉しいことも悲しいことも聞いてほしいんだと思った。
何もしてあげられなかった。
でもそこにいて、聞いてあげられてよかった。
一緒に悲しむことしかできなかったけど……
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